一八八九年（明治二十二年）五月二十三日大久保�ｪ之丞が丸亀ー琴平間の鉄道が開通し、その祝賀会の際に述た台詞である。

　名家の生まれであり、その地域のリーダ的存在にそだってほしいと言う観点から、「知識と行動を一致せよ」と説いた陽明学を学びました。また、尽誠学園の創始者であり、陽明学の学者であった実弟、彦三郎の影響も受けていきます。

　�ｪ之丞の家には、ヤクと言う乳母がいました。早々に亭主をなくし、同じ年に子供を死産するという不幸に遭い、失意のどん底にありましたが、縁があった大久保家で、�ｪ之丞の世話をすることになります。

　その後、阿波（徳島）に帰るが、�ｪ之丞の弟、彦三郎が誕生した際、大地震に襲われたこともあり、また、母、曽乃の産後のひだちが思わしくなく、あけて旧正月を迎える頃から容態が悪化しました。それを聞いたヤクは、急いで�ｪ之丞の家に向かい、大雨の中、猪ノ鼻峠まで迎えに来ていた�ｪ之丞がいたので、喜んで近づこうとした時、土流が起こり、足元をすくわれ、崖から落ちそうになっていました。その時、�ｪ之丞が手をつかみ、引き上げようとしますが、大雨の中であり、３０もの年の差があり、到底引き上げることが出来ず、ヤクは崖から落ち命を落します。そして、�ｪ之丞は尖木に左目が刺さり負傷してしまいます。

　あの峠の道がいま少し広かったら、ヤクは死なずにすんだのに違いない、そんな恨みと、見殺しにしたという自虐の念がこれからの彼の人生に影響を与えていきます。

　そしてその年、母をも失ってしまいます。�ｪ之丞僅かに１１歳の時でした。

＊西讃農民竹槍騒動とは。転載です。

　乱打される警鐘を合図に、人々は手に手に竹槍を持ち、ノブをなぶり殺しにかかりました。それを阻止しようとした村役人に刺激され、暴動はますます大きくなりました。中には真槍や種子島の鉄砲をち出してきた者もおり、また、一味に加わらなければ家が焼かれ、家族が殺されると流布され、一万余の群集が蜂起しました。酒気ますます帯びて、ほら貝や音頭に煽動され、連中は足腰も立たなくなった仲間を、もう役に立たんとして、突き殺したり、生き埋めにしたり…歌や踊りに合わせての人殺しは、犯罪史にも例を見ない残酷さでした。

　どだい今回の不祥事は、政府の不手際から生じたものであり、徴兵という大事を太政官布告の一片で下達したつもりであったならば、余りにも不用意過ぎるのではないのでしょうか。

　青年�ｪ之丞が肝に命じた苦しくも大きな教訓でした。

　この工事が�ｪ之丞畢生の大事業となった四国新道開発の端緒となっていきます。

　これに対する�ｪ之丞の行動は迅速でした。

　これは四国新道期成同盟の第１回大会の際に、�ｪ之丞が述べた言葉です。

　�ｪ之丞は、あくまでも四国は一つという見地に立って道路の開発をする、という事を考えていました。

　四国新道開削には多くの問題があり、予定道路地に土地がある人々は多いに反対し、遂には�ｪ之丞を殺そうという動きまで出てきます。

　�ｪ之丞は、命を賭して、道路開削を目指したのです。

＊殺されそうになった時のエピソード　

　四国新道開削にあたっては、道を作るために田畑を潰すということから、�ｪ之丞は命を狙われる危険性さえもありました。これは高知県令田辺良顕に面談に行った時の話です。

　�ｪ之丞と白川形治というお供の者は、四国新道の道路調査をしていた途中に県庁を訪れると、まだ田辺県令が来ていないというので、小使室で待つことになりました。二人が待っていると、若い男が入ってきて、「今日来るという大久保�ｪ之丞という男を殺してやる」といきまいています。男は、道を作るために、田畑を潰されてはたまらないというのです。じっと聞いていた�ｪ之丞がようよう名を告げると、最初、男は�ｪ之丞の身なりの粗末さにびっくりし、絶句してしまいました。あまりみすぼらしさに�ｪ之丞とはおもいだにしなかったのです。�ｪ之丞はその男にとうとうと話して聞かせました。

　懇々と聞かされた男は納得して、その場は無事にすんだということです。

　さて、このことがあってから数十年。�ｪ之丞の記念碑ができて数年の後、記念碑の前で一人の老人が頭を下げて泣いていました。あの高知県庁での言葉を悔いてのことだったそうです。

　その後は、緑内障に悩まされながらも、明治18年吉野川導水提唱し 香川用水の礎を築いたりもしました。

　明治19年四国新道開削工事起工式:4月7日にようやくこぎ着け、明治22年讃岐鉄道開業式:5月23日を開き瀬戸大橋架橋を提唱しました。その際に、架橋に伴う本四間交通の安定性、時間短縮と交通の広域化は、我が国及び四国に極めて大きな経済効果をもたらすであろうと述べてます。

　明治23年讃岐阿波新道が完成し、以前から進めていた、移民推進のために北海道へ赴いています。

明治24年 42歳。�ｪ之丞は県庁の議会場の壇上に立って討議中、突然崩れ落ちるように倒れ込みました。急遽高松病院に運ばれましたが、12月14日尿毒症を併発して帰らぬ人となりました。不足する工事金に注ぎ込んだ私財は、当時の金額で6、500円にも達し、そのため父祖よりの蓄えと、年に300石も納まってくる田畑や、鬱蒼と生い茂った山林のほとんどを人手に渡していまいました。彼の死後、残された家族は三度の食事にも窮したと伝えられています。

　かくて�ｪ之丞が命をかけた畢生の大事業四国新道は、工期八年、総工費750,000円をかけて、1894年(明治27年)5月、ようやく全道の竣成となりました。後に残された�ｪ之丞の手記や日記、それに7,323通にも及ぶ膨大な手紙の束は、克明に工事の記録を伝えてはいますが、"道"以外の何も語ってはくれません。

＊瀬戸大橋について

　瀬戸大橋は、大久保の在命中に実現することは出来なかったが、遂に建設の動きとなる。

　しかし、どこから先に作るかというのでひと悶着があった。坂出、児島に橋をかける瀬戸大橋、尾道、今治に橋をかけるしまなみ街道、神戸、鳴門間の明石大橋の３個の案がある。

　１歩も２歩も抜きん出ていたのが明石大橋である。原口忠次郎氏が昭和十五年四月に鳴門海峡を橋で、明石海峡を船でという架橋構想を打ち明け、建設を求めるが戦争が起こり流れてしまう。その後原口は、神戸市長に就任し、鳴門海峡の調査をはじめ、多額の予算を使い市民や議員から反対が出たが強引に押し切り、鳴門海峡に鉄橋を架け淡路島横断鉄道を建設、さらに明石海峡を海底トンネルでくぐり四国と本州を結ぶという鉄道建設史上最大の計画にまで事業を発展させた。市民や議員は、うちの市長は夢を見とるんかといい、いつしか、本州、四国間の橋を夢の架け橋と呼ぶようになったと言われている。

　なんのかんのと、着々と事業は進み、昭和二十八年に鉄道敷設法が改正され、本四淡路線が予定線として追加された。

　その翌年紫雲丸事故という悲惨な事故が起こってしまう。以下、新聞より抜粋。

　昭和３０年５月１１日午前７時１分、高松市沖の女木島（めぎじま、鬼ヶ島）西方約１キロの海上。一帯は、四国の南海上にあった温暖前線の急激な北上で濃霧に包まれており視界不良。この中、２１分前に高松港を出港した旧国鉄の宇高連絡船・第八紫雲丸（１４８０トン）が、修学旅行の小、中学生ら乗客７８１人を乗せて宇野港に向かっていた。

　国内の海難史上に残る大惨事は、ここで起こった。宇野発の宇高連絡船・第三宇高丸（１２００トン）が紫雲丸に衝突、紫雲丸は左舷に大きく傾いて、２分後に約１７メートルの海底に沈没した。「あっ」という間の事故に逃げ出す余裕はなく、香川、愛媛、広島、島根の子供たち１００人を含む１６８人が波間の犠牲となった。

「死体が揚がってきた。新しい学生服を着た１４、５歳の中学生だ。両手を精いっぱいに伸ばして、何かにつかまろうともがき、力つき果てたという格好。死体を処置する日赤の看護婦が涙を流して合掌する」

　現場へ飛んだ徳島新聞記者は、翌日の朝刊で目を覆いたくなるような惨状を伝えた。

　香川県選出の参院議員・平井太郎氏は、事故発生２日後の本会議で「海底トンネルを建設せよ」と、犠牲者の多さに声をつまらせながら要望。

　徳島県出身の運輸相、三木武夫氏（元首相）は本格的な調査を約束した。

　その後は、２５年の知事初当選と同時に架橋案を胸に秘めていた金子正則氏・元香川県知事は、３１年のサンフランシスコ・ゴールデンゲート橋視察を機に架橋案への傾斜を強め、次第に架橋案が浮上。「トンネルか橋か」を検討した「高松―岡山間海底トンネルまたは架橋の建設促進案の調査特別委員会」を設置した同県議会は、３３年７月架橋が適切」と架橋一本に絞り込んだ。

「橋は１本」とする国の意向を受け、関係地域の誘致合戦は有力政治家を巻き込んで加熱の一途をたどった。１本の場合、当初最有力とされたのは神戸―鳴門ルート。これを推す三木武夫と、瀬戸大橋の巻き返しを図る大平正芳（香川出身）の綱引きは「総理総裁に架ける橋の争い」とはやされた。

　もはや、どこが勝ってもしこりが残る。「経済効果、建設コストとも瀬戸大橋が１番」との内部資料をひそかにまとめていた建設省も「事務当局では手がつけられないものになった」とサジを投げ、政治決着にゆだねた。

　幕引きを演じたのは自民党幹事長田中角栄。４５年度予算編成の際、３ルートすべての建設を決め、大蔵原案で削られていた本四公団の設立まで認めた。

　そして結局は、紫雲丸事故のあったこともあり、瀬戸大橋から作られることになった。何と１９７７年のことであった。翌年から工事が始まり１９８８年４月に開通した。大久保�ｪ之丞が提唱してから約百年後のことであった。

　瀬戸大橋の工事課程も書きたかったが、時間もスペースもないので割愛させていただく。