サークル誌『天下布武』第二号掲載詩

作者:山原水鶏

題名:聖なる丘

 

 聖なる丘に立つ者の 心清らかなるのを

  ああ 神の認めぬ筈はあるまい

 静かな雨の 降り注ぎ

  溢るる泪の 滝となり

 悪業を 麓に流すのは

  夥しき善行の 一つなり

 

 碧雲の微かに掛かる 虹を

 「平和の象徴」と 知らぬ者はいまい

 豊かな色の 創造に

  栄えある歴史の 糧となり

 火を焚き 神を仰ぐのは

  懐しき信仰の 風習なり

 

 しかし――この丘の空の 微かに嘲笑う霹靂を

  ああ 悪魔の見逃す筈はあるまい

 緩やかな怨差の 到来し

  そを見上げる蒼氓の 何れも卑屈となり

 暫時 醜態を曝すのは

  賢しき所業の 遵奉なり

 

 隣人の顔を見よ その者の醜悪を

  もはや 咎めることもできまい

 細やかな 偽善の聖杖を片手に

  流れる血潮の淵へと 立ち乗り

 なお この「聖なる丘」に 縋り付くのは

  さもしき操行の 所以なり

作:平成十年九月二十一日


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